日本テレビ「愛は地球を救う」に見る”美談”チャリティの裏側で蠢く商魂劇

▼異例の事態となった今年のイベント

今年もまた日本テレビのあの番組の放映が近づいてきた。そう、「チャリティ」の錦の 御旗の下、日テレの全系列局が参加し総力を拳げて取り組む夏の一大イペント「24時間テ レビ愛は地球を救う」のことである。

「偽善」「自己満足」といった批判を受けつつも、今年で22回目を数えるこの番組はテレ ビ業界では夏の風物詩といえるまでに定着している。例年、同番組のチャリティパーソナ リティにはその年を代表するアイドルが起用されることもあって、芸能マスコミもこの番 組の目玉となっているチャリティマラソンや障害者をテーマにしたスペシャルドラマのニ ュースを毎年派手に報じてきた。

ところが、だ。今年に限っては、放送までーヶ月を切った時期になっても内容について の話題が一向に聞こえてこないという異常車態が起きているのだ。発表された特別企画は KONISHIKIが身障者と遠泳にチャレンジするというものくらい。スポーツ紙やテ レビ雑誌の記者たちは、日テレの看板番組に起きた異変に首をかしげるばかりである。

「とにかく、野球やK−1以外の企画内容がほとんど決まってないんです。宜伝部もマス コミにパプリシティを流そうにも、肝心の書いてもらう話が無いからパニック状態。20年 以上やってきた番組で、こんな切迫した状況は初めてでしょうね」(テレビ雑誌記者)

こうしたゴタゴタのすべての発端は、本誌が先月号でも報じたKinkiKidsや TOKlOといったジャニーズタレントの突然の出演辞退にある。なにしろジャニーズ事 務所が日テレ側に出演辞退を申し入れたのが番組の制作発表が行われるわずか2日前。こ のため進行中だったジャニーズ絡みの企画はすべて白紙になったのである。

「24時間テレビの制作は、局内で組織される『24時間テレビ制作委員会』が担当している んですが、この委員会は例年l月に発足し、ほば半年がかりで企画を煮詰めてます。それ が土壇場でご破算ですからね。地方の系列局は別としても、本社スタッフはすっかりやる 気を無くしてます」(日本テレピ社員)

しかも、ここ数年同番組の視聴率を支えてきたジャニーズタレントに逃げられてしまっ たせいで、日テレ本社内部では、早くも責任問題まで囁かれているという。

このジャニーズ事務所の造反は、チャリティパーソナリティに起用されたSPEEDの 所属するライジングプロがジャニーズ事務所と犬猿の仲にあったためと言われているが、 コトはそれほど単純な話ではない。

「それはあり得ないよ。ジャニーズとライジングとの間に確執があるのは確かだけど、今 年の24時間テレビは春の時点でメインのチャリティパーソナリティがSPEED、番組パ ーソナリティをKinkiKidsがやるという事で決定してたし、双方の事務所も納 得していたはずなんだからね」(前出・日本テレビ社員)

では、これまで同番組でチャリティの大切さを訴えてきたはずのジャニーズタレント が、その番組を混乱に陥れてまで、突如として番組を降りた理由は何か。そこには、この チャリティ番組が抱える矛盾と利権の構造が見え隠れしている。

「はっきり言ってジャニーズと日本テレビがギリギリまでモメてたのは金の問題ですよ。 番組から派生する利権の配分が析り合わなかったんです」(前出・日本テレビ社員)

チャリティというお題目をかかげる24時間テレビの背後には、大手芸能事務所とテレビ 局の思惑が複雑に絡み合っているのだ。

▼チャリティの美名の裏で商売

「まさか出演料が出るとは思わなかった」
8年前、91年の同番組のチャリティパーソ ナリティに起用された帰国子女の西田ひかるが制作発表の席上、記者たちを前にこう眩い たという笑い話があるが、今や、この日本を代表するチャリティ番組の出演者に高額のギ ャラが支払われている事などはいまや公知の事実である。

「局内でも24時間テレビのタレントのギャラに関してはトップシークレットになってます が、一説にはパーソナリティには連ドラ1クール分に相当する額が支払われてると言われ てます。しかも、ゲストとして会場に駆けつけるタレントたちにも出演料が出てますから ね。チャリティのイメージを保つためにもホントは知られたくないでしょうね」(前出・ 日本テレビ社員)

つまりタレントにとっては「24時間テレビ」も、局からギャラが支払われる仕事のひ とつにすぎないのだ。そして、仕事である以上、利益を得ようとするのはある意味当然の こと。このため、同番組のキャスティングをめぐっては、毎年のように芸能事務所同士の 駆け引きが行われているという。

「スポンサーの意向もありますが、最終的なキャスティングの決定は局のチーフブロデュ ーサーが行います。この番組のプロデューサ−は毎年局内の持ち回りで、例年l月にその 年の担当プロデューサーが決まると、夜の接待攻勢が始まるんです。そのプロデューザー が普段担当している番組に協力する事もありますし、そうなるとやはり政治力のある大手 事務所が強い。その代表格はやはりライジングをはじめとするいわゆるバーニング系とジ ャニーズですね」(芸能事務所幹部)

なるほどこれまでの番組のチャリティパーソナリティを見れば一目瞭然。昨年が広末涼 子、その前年が飯島直子、さらに、瀬戸朝香、鈴木杏樹、牧瀬里穂、観月ありさ、宮沢 りえ、南野陽子、小泉今日子と、見事なまでに大手芸能事務所系列の所属タレントがズラ リである。

「この番組は芸能事務所にとって見れぱ金も入りイメージアップも計れる一石二鳥のオイ シイ番組なんです」(前出・芸能事務所幹部)

さらに、こと金に関して言えば、番組のイメージガール的な要素が強いチャリティパー ソナリティより、番組の主役ともいえる「番組パーソナリティ」の方が数倍ウマ味は大き いのだ。そしてここ数年、この利権をガッチリ守ってきたのがほかならぬジャニーズ事務 所である。

例えばチャリティバーソナリティを広末涼子、番組パーソナリティをTOKIOが務め た昨年を例に挙げてみるとこの構造がよく分かる。広末がほぼメイン会場の武道館からの 中継にしか登場しないのに対し、TOKIOをはじめとしたジャニーズタレントはまさに 出ずっぱりである。

恒例となった24時間チャリティマラソンに挑戦したV6の森田剛を同じV6の井ノ原快 彦がリポートし、TOKIOが武道館でマラソン応援ライブを行う。スペシャルドラマで は売り出し中のジャニーズジュニアの滝沢秀明が主演し、TOKIOの国分太一が共演。 さらにTOKIOが、障害者たちとの合同演奏ライブに挑戦し、レギュラー番組である 「ザ!鉄腕!DASH!!」のスペシャル企画にも登場するといった具合である。

また一昨年も、番組パーソナリティをKinkiKidsが、スペシャルドラマの主 演はKinkiの堂本光一、チャリティマラソンはTOKIOの山口達也てある。まさに 近年の24時間テレビは、ジャニーズが独占しているといっても過言ではないだろう。

これは95年の番組パーソナリティに起用されたSMAPの大成功が影響しているとい う。94年の募金額が約7億9千万円だったのに対し、歴代2位の平均視聴率を記録したこ の年の募金額は約10億6千万円。3億日近い開きはまさにSMAP効果。メイン会場の武 道館にはファンが大挙して訪れ、会場に入れなかったファンが警備員とトラブルを起こす 騒ぎまで起きている。このため、出入り自由だった武道館の観覧は、翌年からは事前の応 募による抽選となったほどだ。

しかも、多くのCMに出演しているジャニーズタレントは、番組のスポンサー獲得にも 大きく影響している。「24時間テレビ」にとってジャニーズ事務所のタレントほ、まさに 生命線ともいえる存在だったのだ。ところが今年は、この影響力を逆手に取って、ジャニ ーズが日本テレビにさまざまな条件を要求してきたというのてある。

「最大のポイントは、昨年、一昨年とジャニーズタレントが担当してきた「応援ソング」 の存在です。『24時間テレビ』のテーマソングといえぱ、『サライ』が定審ですが、実際 に番組を見るとサライが流れるのはエンディングの場面のみ。応接ソングはその何十倍も の頻度で24時間流れ続ける訳だから、その使用ロイヤリティは莫大な額になるし、宜伝効 果も大きい。ところが今年は例年と違い、チャリティバーソナリティがSPEEDになっ たため、応援ソングをどちらが歌うかでモメたんです。特局、最初の予定通りSPEED に決まったんてすが、これに怒ったジャニーズ側がタレントをすぺて引き上げてしまった んです」(日本テレビ関係者)

実は、今年の番組担当プロデューサーである柏木登はTOKIOの「鉄腕DASH」の 担当でもあり、ジャニーズとは親密な関係にある。そのため今年の応援ソングもジャニー ズが歌うと見られていたのだが、蓋を開けてみるとこの結果である。日テレ局内では「柏 木はライジングの接侍攻勢に屈しジャニーズを切った」と揶揄されているという。

そのライジングが今年手にした利権は歌だけてはない。同番組には毎年十数万枚作られ るおなじみの黄色いTシャツやタオル、テレホンカードといったさまざまなチャリティグ ッズの売り上げがある。収益分はチャリティに回されているというが、ここにもあるカラ クリが隠されているのだ。

「今年はバーソナリティに起用されたSPEEDの新垣仁絵がTシャツのデザインをして るんですが、これにも当然ロイヤリティが発生します。テレホンカードなどの肖像権も同 様です。なんでもTシャツについてはライジングプロサイドが強引にネジ込んできたと聞 いてますよ」(前出・日本テレビ社員)

ところがこうした事実は、募金者にはまったく知らされていないのが実情なのだ。チャ リティに参加するつもりで購入したはずの代金の一部は巧妙に芸能事務所に流れる仕組み になっているのである。

▼チャリティの日本文化水準を証明

昨年、同番組が集めた募金額は約9億円余り。これまでの類型は約186億2000万 円と発表されている。なるほど日本テレビが日本最大の非営利民間公共団体と喧伝するの もうなずける莫大な額だが、実はこの金の連営に関しても極めて不透明な部分が存在して いる。

確かに集まった募金の寄付先や用途は、自局の番組やマスコミヘの広報活動を通じて 視聴者にも報告されている。開始当初から統いている、巡回入浴車にリフト付きバス、電動 車椅子の福祉団体への贈呈に加え、阪神大震災や雲仙・普賢岳火砕流災害などの国内災害 授助や、ネバール、カンポジアヘの海外接助といった実績もある。

これらの募金を違用して福祉活動を行っているのが日本テレビと系列局が作る「24時間 テレビ」チャリティ委員会。ところが同委員会が作成し、スポンサーや関係者だけに配る 資料に記載されている収支決算報告書をよく読むと、毎年『前年度繰越金』なる項目が10 億円近く記載されている。つまり、「24時間テレビ」は常時10億日を越える金をプールし ているのだ。集まった募金はそのまま寄付に回るわけではないのである。

「これはいわゆる資産運用のための金です。かつてはこの金を銀行に頂けた金利で制作費 やタレントのギャラの支払いに充てていたと聞いてます。10年前なら利息分だけて年4、 5千方円にはなりましたからね。もっとも今の低金利では利息なんてほとんど無いも同然 なんですけど」(前出・日本テレビ社員)

日本テレビはインターネットのホームページでQ&Aの形を使い「出演料は局やスポン サーが負担しており、募金は一切使っていない」と宣伝にやっきになっているが、この 「繰越金」の存在は、日テレの広報番組やインターネットのホームページを見てもどこに も記載されていない。日本テレビはこの金をどう説明するつもりなのだろうか。

さらに、番組の募金がらみのトラブルも枚挙にいとまがないという。
「募金会場で制作スタッフがボランティプを装って集めた募金を横領する事件があったん です。金額が少ないせいもあって大事には至らずに局内でモミ消したようですが、今でも 『ちょっと抜いてこようぜ』なんて平気で話す局員もいますからね」(テレビ制作会社ス タッフ)

また、地方局では、事前に社会福祉協議会やボランティア団体に福祉車両の贈呈をチラ付 かせてポランティアを集めるといった事も行われているといわれ、一部ではそのリフト付 きバスや入浴車といった福祉車両を作るメーカーからのキックバックまで噂されている。 こうした問題が出てくるのも、番組そのものに「チャリティしの意識が希薄になってき たからにほかならない。78年に放送された第一回のテーマが「寝たきり老人にお風呂を! 身障者にリフト付きバスと車椅子を!」だったことを見ても分かるように、開始当初は具 体的に問題提起がなされていたはずである。

ところが、こうしたテーマでは視聴率が取れないという理由から、92年に「番組バーソ ナリティ」を設定し、よりバラエティ寄りの演出を取り入れたことが「チャリティ」の意 識を希薄にし、ギャラの高騰や大手芸能事務所の利権獲得競争といった問題を生み出した ともいえるだろう。

近年の「チャレンジ」や「勇気を出して」「いま、始めよう」といった漠然としたテー マで感動を演出する手法も、一皮むけばアィドルを客寄せバンダにした募金集めイペント てしかない。福祉の大切さを訴えるはずが、視聴率を取るためにチャリティとは無関係な アイドルのバカ騒ぎを放送するのでは本末転倒てある。84年から同番組にかかわってきた 番組のもうひとつの顔であるアナウンサーの徳光和夫も、こうした傾向に呆れ呆て、周囲 に番組降板の意向を洩らしているという。

実際、この不況下、通常の番組に比べれば視聴率が見込めず宣伝効呆も低いことから、 番組に金を出している企業の多くはスポンサ−を隆りたがっており、日テレ局内でも、今 年1月の会議では番組の打ち切りもかなり真剣に検討されたという。

所詮、日本における「チャリティ」の意識はこの程度のものなのだ。 その意味では、「24時間テレビ」は日本の文化水準が垣間見える、年に一度のテレビ界の お祭り騒ぎといえるのがもしれない。<敬称略>