小林よしのりとの接近で狂い始めた前田日明の「リングス」大暴走の真相

▼保守論客として活動し始めた前田日明

いやはや、自称「格闘王」もとんでもない「リング」に上がったものである。他でもない、先頃ブロレスラーを引退したばかりの前田日明のことだ。何しろこの前田、最近になってやたらと保守論壇にシャシャり出てきては、憂国の士気取りでタカ派発言を連発していろのだ。

昨年9月に開かれた『新しい歴史教科書をつくる会』のシンポジウムではブロレスのメインイペントよろしくテーマソングに乗って登壇し、「忘れてはならないのが、儒教に則った皇国史観であり、愛国心だ」ど、つくる会の全面支持を表明。その後も、『正論』をはじめとする保守系雑誌から自衛隊の広報誌『セキュリタリアン』にまで登場し、「日本は太平洋の半分を日本の影響下におくべき」「自己犠牲こそ愛国心。失われた愛国心を取り戻すべき」と、軍事戦略から教育論まで展開する始末なのである。

もちろん、前田はひとりでここまで舞い上がっているわけではない。一介のブロレスラ−を論壇というリングに引き上げた犯人はいうまでもない、小林よしのりである。

「『朝まで生テレビ』で共演したのをキッカケに小林のほうから前田に接近したんです。小林はその後、『ゴー宣』の欄外で前田をョイショしたり、前田が主宰する雑誌『武道通信』の創刊号で対談まで引き受けたりして、すっかり前田をたらしこんだんです。『つくる会』のシンポジウムに呼んだのも小林ですし、今では二人は完全なタッグパートナーですね。『戦争論』執筆以降、小林のもとからその狂信ぶりに嫌気がさしたブレーンが次から次へと逃げ出してますからね。小林にとっても、とにかく強力な味方が欲しかったんでしょう」(論壇関係者)

しかし、である。前田といえば、たしかにレスラーとしては、ずば抜けた知名度を誇っており、熱狂的なファンも多いが、同時にトラブルメーカーとしても知られている人物。実際、八百長疑惑を暴いた格闘技雑誌編集者を女子トィレに連れ込み暴行したり、石田えりとの不倫騒動では芸能記者に向かって「お前はエイズ以下だ」と差別発言をするなど、その言動は過激というより、メチャクチャとしかいいようがない激情家なのだ。普通なら、こんな人物が国士気取りの発言をしたところで、誰も相手にしないだろう。

にもかかわらず、小林がこんな人物をわざわざタッグパートナーに選んだ理由は何か。答えは簡単だ。前田が「在日」だからである。97年、週刊誌上で「祖父の時代に日本にやってきた」とカミングアウトして以降、前田は自分の意見を述べる前に、必ずといっていいほど「オレは在日で、祖父は李朝末期の軍人で抗日ゲリラだった」というフレーズを入れるようになった。おそらく、小林はこの「武器」に目をつけたのである。つまり、金美齢が日本の植民地だった台湾出身を前面に出しながら日本の擁護をしているように、前田に「在日」というアンタッチャブルな立場から皇国史観を語らせる、という戦略なのだろう。 しかも、論敵からすれば元プロレスラーとまともに論戦するのもどんなものか、という意識も働く。在日という”場外乱闘”を仕掛け、いざとなればブロレスラーという「ロープエスケーブ」ルールが用意されているのだから、これほどタチの悪い保守ブロパガンダはいまい。小林が論争で不利とみるやいなや「オレは漫画家だから」と逃げを打つ手口と同根なのだ。

実際、前田は小林との接近以降、急速に保守論壇に重宝されるようになり、2月にレスラーを引退してからは、本人の勘違いぶりにもより拍車がかかっている。

事あるごとに、「今の日本はヤバイ!これから俺は教育一辺倒でやる」と吠え、「国のために自己を犠牲にするのが、東洋の考えだ」、「義務を呆たさず、権利だけを主張する戦後個人主義を打破すべきだ」と声高に叫ぶ。あげくは、その実践の場として、前田が主宰するブロレス団体「リングス」で、若者育成のための道場を開くと言い出したのである。 とはいえ、本誌としては、所詮、前田は小林らに踊らされているに過ぎず、いずれ底が割れるとこれまで静観の構えをどってきた。だが、ここにきて、その前田の主宰するリングス関係者から縞集部にこんなせっぱつまった告発が寄せられたのである。「リングスを理想の教育の場だとか、自分は教育をやっていきたいという前田の発言を聞くたぴに、涙が出るほど侮しいです。どうしても許せないです。なぜマスコミほ、ああいう人間をチヤホヤするんてすか」ここはやはり、その話に耳を傾けざるをえないだろう。

▼リングス内での横暴を関係者が告発!

このリングス関係者を仮にAとしておこう。Aが本誌に接触を求めてきたのは4月初旬のこと。「マスコミに内情を喋ったことがバレたら、前田にどんな目に遣わされるかわからないから」と絶対匿名を条件にしたAだが、静かに、そしてしっかりとした口調でこう続けた。

「前田は、偽善者です。前田によってリングスはいまやポロポロですよ。スタッブだけでなく、レスラー、ファンもすでに彼を見限り始めていますよ」

リングスといえぱ、前田が92年に一人で旗揚げした総合格闘技団体。衛星放送のWOWOWのスポンサードを受け、ロシアやオランダなどの格闘家が大挙参加し人気を博した団体だったはず。それが今や、いつ潰れてもおかしくないほどの惨状なのだという。

「いかにリングスがひどい場所だったかというのは、リングスの社員が辞めていく実態をつぶさに見れば、すぐに分かりますよ」

Aによるとリングスのスタッフはこれまで10人前後。それが98年から99年の1年間で、愛想を尽かして辞めた者が4人、前田の不興をかってグビになった者が3人。しかもその大半が現場を取り仕切ってきた古参の社員なのだという。すでにリングスは、会社としての機能が完全にマヒし、ストップしている状態らしい。

それにしても、だ。10人規模の会社の社員の大半が、たった1年で入れ代わるというのは尋常なことではない。一体、リングスに何があったのか−−。

「原因はいくつもありますが、前田の独善的な経営と暴力です。それでも2年前までは、たいしたことはなかった。ブロレス団体ですからね、多少のことは我慢できますし、よそも似たりよったりでしょ。前田がおかしくなったのは、引退を決意した去年の初めぐらいから。そう、前田が小林よしのりと接触し始めたころからですよ」

Aは、実際にあったいくつかの前田の暴力事件について語り始めた。最近では、1月23日の武道館大会で、暴力事件があったようだ。この大会は、2月のアレクサンドル・カレリン戦という前田の引退大会を控え、去年の7月以来、WOWOWが久しぶりに生中継をする重要な大会だった。ところが会場はガラガラで観客は半分にも満たない。会場を見渡した前田は、すでにキレる寸前。追い打ちをかけるように、前座の試合がスケジュールより早く進行、7時の生放送開始前には、放送用のカードの順番になり、無理やり長い休憩を入れるハメになった。それが災いして会場は完全にシラケ、冷やかなムードが漂う。これで前田は完全にブチ切れてしまったのだという。

「いきなり、WOWOWの進行会議に参加したスタッフが詰めていた大会本部室に飛び込んでくると、『おまえら、何しとるんや』と怒鳴り上げ、ネチネチと文句を言いだしたんです。でも、怒りの収まらない前田は、ついに女性社員を『出とけ』と部屋から追い出すと、営業担当の社員の襟首を掴んだ後、拳骨で殴ったんですよ」

ブロレスラーがシロートに、また社長が社員に、の一方的な暴力である。卑劣という言葉がビッタリだが、前田の怒りは凄まじく、会場にいた観客にも聞こえたほどだという。 「客入りが悪かったのと、あまりの段取りの悪さで会場が静まっていたところに、前田の怒声ですからね。ファンは会場のアチコチで『前田が暴れている』と囁きあってましたよ」(ブロレス専門誌の記者)

それでも前田の怒りは収まらず、大会終了後、グッズ販売の担当者以外の全員を呼び出し、「なぜ客が入らないんだ」と罵倒を始め、感情が高ぶったのか、灰皿まで社員に向かって投げつけ、机を拳骨で叩き壊す始末。

「あのときだって、カレリン戦の抱負をきこうとマスコミがスタッフルームの外で待機していたから、あれで済んだものの、もし、あの場にマスコミがいなかったら、どうなっていたか、今でもゾッとします」

原因を究明することなく、暴力による脅しといった安直な対処しかできないとは、まさに前田が絶賛してやまない旧日本軍のヤリクチを彷彿させるエピソードではないか。

「ええ、この時点で興行のノウハウを持っている社員やWOWOWとの交渉が得意だった社員がクピになったり、辞めていたので仕切りが悪かったのは前田の自業自得なんです。それに客が入らないなら入らないなりに、会場を狭くすればいい。この1月の大会だってキャバは1万人規模。無理せずに2、3000人規模の会場にしておけば、十分に満員になったんです。でも前田が、『ウチは2000人規模でやるバンクラスとはちゃう』と、鶴の一声で決めた。しかも、マッチメイクもファンを無視して独断で決める。自分の責任ですよ」

さらに去年の10月にも同じような暴力事件があったという。
「チケットの売り上げが悪いというだけで、営業担当の二人の社員を呼び出し、『気合を入れるため、反省文を提出しろ』と言いだしたんです。実は前田、反省文や謝罪文を書かせるのが好きなんですよ。それはともかく、反省文の期日より前に、一人が早く提出したんです。そしたら前田は、残る一人を呼び出し、『何で提出しないんだ』と詰め奇り、社員が期日までに出すといった途端、『口答えするな!』と、胸にパンチ。その後、しばらくその営業担当者は、胸を押さえ、ずっとうずくまっていました」

提出期日は前田自身が決めたというのに、これでは社員もたまったものではない。だが、社員に対する暴力事件を起こしても、決して表沙汰になることはない。

「前田の暴力でケガをしても、リングドクタ−の病院へ通うことになっているんです」 組織ぐるみで社長の暴力事件を隠蔽してきたというわけだ。経営者としての冷静な状況判断もできず、過去の栄光にすがって無謀な計画を立てる。それが失敗すれば、部下に一方的な暴力の制裁を加え、組織ぐるみで隠蔽する−−。現在のリングスは、まさに旧日本軍化しているといっていいだろう。

▼前田の愛人が社内で女帝化!

「社員が辞めていったのは、前田の暴力も一因ですが、それ以上に前田の公私混同が激しくなったからなんです」昨年6月、リングスにUという女性が入社した。前田のマネージャー兼一般紙広報の担当としての入社である。「彼女は、当時、前田がどうしても戦いたかった格闘家ヒクソン・グレイシーとの交渉の際、通訳として手伝っていた人物。その時に相当気に入って、そのまま雇うことになった。でも、広報にはIという女性がいて、仕事は彼女で十分だった」

にもかかわらず、突如、Uを雇ったのはなぜか。話は簡単だ。彼女は前田の好みのタイブだったからである。
「前田は石田えりのケースでもわかるようにすごい巨乳好み。Uもすごくグラマーな女性で一目で気に入ったようです。実際、その後、前田は彼女を愛人にしてしまうんですよ」 実際、前田とUの関係はリングス内部では知らぬ者はいないという。

「大会の打ち上げなどでは、酔った勢いで公然と前田とキスをしたりと、普段からベッタリ。前田は選手の交渉などもあって、定期的にオランダに行くのですが、その時、Uも連れていく。彼女が行く理由は全くなく、しかも前田と彼女だけファーストクラス。デカい選手だってエコノミーなのに、ですよ。その後、同行した選手の間で、『Uさんって、社長のコレ(愛人)みたいですね』と断かれ始め、社内でも公然化したことで、彼女の方も完全に開き直った」

いや、それだけではない。このU、前田の威光をカサにリングス内を仕切り始め、今では完全に女帝化しているという。
「Uは、仕事上、広報のIとブッかることが増えた。するとUは、『Iはライバル団体のKRS(PRlDEシリーズの企画会社)に情報を流している』などと、あることないこと前田に告げ口し、Iをクビにさせたんです」

この件に関しては、Iと仕事をしていた某プロレス雑誌の編集者もこう証言する。 「去年の9月、リングスの有望選手である成瀬昌由が雑誌に『リングスはこのままだと潰れる』と爆弾発言をしたのですが、その時、同席していたIは、発言を止めるどころか、一緒になって泣いてしまったという事があった。もうクビが決まっていたIの代わりに成瀬が喋り、記者が記事にしたんです。今、広報は、『フロムA』で募集したアルバイト。僕たちに会うと、『辞めたい』といっているよ」

暴君と化した前田に、女帝のU。まさに末永ピャーポを追い出し、カナモリを女帝にした小林よしのりと、同じ体質ではないか。ただでさえ恐怖政治下にある職場に、前田は、今年になって異母弟を入社させた。Aは、「前田は信用できる腹心がほしい、と。信じられるのは家族だけだというんだから呆れるしかない」と、スタッフに対するその無神経な言勤に憤る。

ところが、この異母弟、仕事が出来るどころかただのシロート。年齢も24歳。それが虎の威を借る狐のごとくで、これまたミニ前田と化し、現場を仕切り始めたという。
「経費節減だといって、社員の携帯電話の通話料を給料から天引き。文句をいった社員を『明日から来なくていい』といって、勝手にクビにしてしまった」

その上、このミニ前田と女帝が社内の権力闘争に明け暮れているというのだから、もはやリングスは末期症状といっていい。
「今、会社はバイトばかり。そのバイトをフロムAや職安で募集するのですが、条件に『週休二日、残業代あり』と書きながら、全部デタラメなんですから。で、バイトが文句をいうと、すぐにクビ。こうなると、もうただの悪徳商法といっていいですね」

以上が、Aの告発の骨子である。余りの惨状に呆れてしまうばかりだが、さらにリングスの周囲で情報を集めてみると、状況はもっと酷いことになっているらしい。

前出のブロレス雑誌編集者がいう。
「選手の求心力も落ちています。去年1月、やはりリングスの功労者である生え抜きのレスラー・長井満也が一方的に解雇される事件があり、これで完全に選手たちも諦めたようです。事実、選手がらも『再就職先ないですかね』と聞かれるぐらい。リングス・アメリカを作るという名目で渡米した高阪剛という選手は、実は前田の下にいたくなかっただけ。今や、彼はリングスが潰れるのを待っている」

現所属選手の成瀬でさえ、雑誌で「リングスの選手は、会社が潰れると思っている。弟子が集まらないのは会社に問題があるから」といっているのだ。また、WOWOW関係者も「近いうちに契約を打ち切る」と断言する。

WOWOWからの放映料が絶たれれば、リングスは倒産する。が、「今の前田のやり方を見ていると、バートナーシップは結べない」(WOWOW関係者)といわれても反論できまい。

それにしても、だ。理解できないのは、自分の会社が自分の行状で潰れかかっているにもかかわらず、「リングスを若者を教育する場にしたい」とか「義務を果たさず権利だけを主張する戦後個人主義を打破すべき」といった発言をする前田の神経であり、その前田の発言を政治的に利用する保守論壇のあさましさであろう。

▼前田の暴走は小林に原因が

「いや、逆ですよ。前田が暴走したのは、小林よしのりらによって保守のイデオローグに祭り上げられ、自分の言っていることを実践した結呆と考える方が自然」そう解説したのは、前田日明と交遊のあった作家。

たしかに考えてみれば、前田のレスラーとしての歩みは、どちらかといえば、”戦後民主主義”的だった。絶大な人気を生んだUWFは、アントニオ猪木を頂点とする家父長制的な体制と、既存のブロレスを否定するところからスタートし、前田の行動を「UWF革命」と呼んで評価したのは、糸井重里、夢枕摸、鈴木邦男といった団塊世代の文化人たちだった。

実際、この当時、前田の周囲には、こうした団塊世代の文化人が集まり、前田自身も「UWFは、共同体だ」と発言。会社組織をオープンにし、選手に平等の権利を与えるなど、今の前田とは正反対の姿勢だったのである。

ところが、その前田がある時期から一変したという。先のAもこう話す。 「前田さんはもともとキレやすく、メチャクチャな人ではあったけれど、ここまでひどくはなかった。それが98年5月頃から急変して、リングスの経営に口を出し、横暴の限りをつくし始めるんです」

98年5月といえば、まさに小林よしのりと『武道通信』で対談し、親交を深めだした時期ではないか。これははたして偶然なのだろうか。前出の作家は「前田ほど人の影響を受けやすく、単純な人間もいない」といい、こう続ける。

「前田は意外に知識人とか文化人という肩書に弱いんだよ。だから小林の接近を喜んだのだろうし、タカ派的な言動をするのは、そうすれば周囲が自分を知識人として扱ってくれ、チヤホヤしてくれることを知ったからです」あらためて前田のタカ派的言説を検証してみると、要は「子供の頃から、戦記物が好き。一生懸命お国のために戦った人は偉い。その人たちは天皇に殉じたのだから、天皇もまた敬うべき」ということを、付け焼き刃的な東洋思想にまぶして、発言しているだけ。

UWF時代、文化人相手に付け焼き刃のバタイユを語っていた時と、変わらないパターンなのだ。ようするに、前田の変節はUWFが崩壊すると同時に去ってしまった文化人の代わりに、保守系文化人が近寄ってきたことの結果に過ぎないのである。

いわば前田日明の不幸は、その相手が小林よしのりだったという、そのことに尽きよう。前田が「在日」というコンブレックスから肉体を鍛え上げたように、小林もまた虚弱児のコンプレックスから漫画家になった。コンブレックスを隠そうと、虚勢を張り、権威を否定し、挫折すると権威に媚ぴてしまう性格まで一致しているのである。

しかも、自分のアイデンティティを支える肉体の衰え、引退という微妙な時期に、似た者同士の小林と出会ったために、より強い影響を受けてしまったともいえる。言うなれば、小林の歩いた後を前田はパカ正直に走っているわけである。

現在の前田の姿は、「愛国心という大義名分を掲げながら他人に自己犠牲を求める」連中が、いかにろくでもないか、ということを如実に証明しているといえよう。〈敬称略〉